シンクタンク

RIWBでは、「Well-beingとSpiritualityの発展に寄与する」ために、「世界が自動的に善くなるインセンティブ設計を社会実装する」ことを理念に掲げています。
具体的には、科学技術の進歩や社会課題の変化に応じて、個人・企業・政府の評価軸と行動原理をアップデートすることによって、世界が自動的に善くなる社会構造を創造することを使命としています。​

そのためには、大学・事業会社・コンサルティングだけではなく、「シンクタンク」という立ち位置が重要であるとRIWBは考えています。

シンクタンクとは

「シンクタンクのシンクタンク」と呼ばれるペンシルバニア大学の Think Tanks and Civil Societies Program The Think Tanks and Civil Societies Program (TTCSP) は、シンクタンクを以下のように定義しています。

Think tanks are public policy research analysis and engagement organizations that generate policy-oriented research, analysis and advice on domestic and international issues, thereby enabling policymakers and the public to make informed decisions about public policy. Think tanks may be affiliated or independent institutions that are structured as permanent bodies, not ad-hoc commissions. These institutions often act as a bridge between the academic and policymaking communities and between states and civil society, serving in the public interest as an independent voice that translates applied and basic research into a language that is understandable, reliable and accessible for policymakers and the public.

(シンクタンクは、政策立案者や一般市民が公共政策について十分な情報を得た上で意思決定できるように、国内外の問題について政策志向の研究・分析・助言を行う恒久的に組織された独立機関である。シンクタンクは、独立した立場から政策立案者や一般市民に対して、応用研究や基礎研究を、理解しやすく信頼してアクセスできる言語に翻訳することによって、学術界と政策決定界や、国家と市民社会の橋渡し役として、公共の利益のために機能する)

2020 Global Go To Think Tank Index Report

つまり、シンクタンクとは、高度な専門領域と政策や事業の現場を繋ぐ橋渡し役を自律した立場から担う機関だということができます。

ここで、『シンクタンクとは何か』(船橋, 2019) を参考にしながら、シンクタンクの立場を、①Thnki重視Do重視、②自立性応答性 という2つの軸から整理します。

Think と Do

Think重視Do重視 は、以下のように整理されます。

  • Thnink重視:公共政策の検証・立案・提言のために、中立で客観的な調査研究を重視
  • Do重視:政策や事業実現のための具体的行動を重視

シンクタンクは、ThinkDoも行うが、はじめからDoありきではなく、Doに向かうためにThinkの役割を担います。
また、上図から、Thinkがメインで基礎研究や応用研究に強い大学と、Doがメインで政策や事業の実現を行う政府・NPO/NGO・事業会社を、橋渡しする存在であることが分かります。

自律性 と 応答性

自律性応答性 は、以下のように整理されます。

  • 自律性:政策研究課題設定と調査研究内容を、自分で決定
  • 応答性:政策研究課題設定と調査研究内容を、クライアントの意向を汲んで決定

シンクタンクの最も重要な要素の1つは、自律性です。シンクタンクには、政府や企業などのステークホルダーから独立性を保ち、自らアジェンダを設定し追求することで、高い自律性を維持します。
もちろん、政策立案や政策提案に際して政府との対話や共同作業などの一定の応答性も求められます。そのため、自律性に重心を置きつつ、応答性にもの領域にも範囲が及びます。

シンクタンクと似た機関として、コンサルティングが挙げられます。どちらもThinkとDoをこなし、高い専門性と現場レベルでの実行の橋渡し役を担います。
シンクタンクとコンサルティングの決定的な違いは、自立性と応答性にあります。シンクタンクはアジェンダ設定や調査研究をより長期視点で自律的に行うのに対し、コンサルティングはクライアントの意向に応答するためより短期視点での結果を重視します。

シンクタンクが必要な理由

現代社会において、大きく3つの理由により、シンクタンクが必要であると考えています。

(1) VUCA時代

1つ目の理由は、現代が「VUCA」と呼ばれる「想定外の事態の多発により、先行きが不透明で将来の予測が困難」な時代だからです。
VUCAとは、Volatility (変動制)・Uncertainty (不確実性)・Complexity (複雑性)・Ambiguity (曖昧性) の頭文字をとった造語です。
元々は、アメリカ軍が、1990年代の冷戦終結後に、核兵器ありきの戦略が不透明な戦略へと変化したことを表すために使用していた軍事用語でした。その後、現代社会において、変化の激しい世界情勢や技術革新を表す言葉として一般社会に浸透するようになりました。

VUCA時代には、既存の社会の枠組みでは対応できない想定外の事態が多発するので、予測困難な将来に対応するためには、既存の枠組みの外から社会を俯瞰的に見る目が不可欠です。また、ときには、社会構造そのものの妥当性を検証し、必要に応じて新たな社会の枠組みを創造していくことが求められます。
このような状況下では、クライアントの意向に短期決戦型で応えるコンサルティングだけでは、社会課題を解決するにあたって構造的な欠陥が生じてしまいます。それは、クライアントの意向は、既存の社会の枠組みを前提にいま目の前の課題への解決が最大の関心事であることが多いからです。もちろん、コンサルティングは、幅広い視点から最も中長期的な視点や利害関係者の調整を含め、包括的に解決策を提示するために努力します。
しかし、既存の枠組みそのものを疑い、社会構造を根本から再構築するという視点は、応答性の軸からは生まれません。

シンクタンクは危機の時代に、時代の要請に応える形で誕生してきました。実際に、世界のトップのシンクタンクの多くは歴史上の転換点を契機に誕生しています。
これは、シンクタンクが既存の枠組みでは対処しきれない危機を乗り越えるために大きな力を発揮してきたことを意味しています。

科学技術の進歩や社会課題の変化に応じて社会構造を根本から変革していくためには、シンクタンクのような自律した立場から長期視点で社会にアプローチが不可欠であると考えられます。

(2) 民主主義の機能

シンクタンクが必要な2つ目の理由は、民主主義を機能させるためです。

民主主義が機能するためには、

  • 政策決定者が、政策形成の議論を開かれた場で行い、社会への説明責任を果たすこと
  • 国民が、政策への関心を持ち、当事者意識を持って政策形成の議論に関わること

が必要です (船橋, 2019)。

上記を実現するためにはさらに、政策の評価を国民に分かりやすくタイムリーに伝え、国民の声を政策の言葉に翻訳し、それを政策立案過程に反映する役割が不可欠です。
それを担うのが、「 “知” (大学) と “治” (政治) を繋ぐ橋渡し役としてのシンクタンク」(鈴木, 2007) です。シンクタンクは、民主主義社会において潤滑油としての役割を果たすことができます。

(3) 輿論と世論

シンクタンクが必要な3つ目の理由は、「輿論」形成です。

現代は、すべての国民がSNSなどを通じて個人の意見を表明できる時代です。このような時代は、国民1人1人の意見が政治や社会に反映されやすい良い時代と言えるでしょうか。
RIWBは、輿論(よろん)と世論(せろん)を区別し、社会への信頼性の高い情報の提供と、よく吟味された「輿論」の形成が不可欠であると考えています。

輿論と世論の違いは、以下のように整理されます。

  • 輿論 (ヨロン):Public opinion,公的意見,公論,公開討議された意見
  • 世論 (セロン):Poll,Popularity vote,人気投票,私に論ずること

『輿論と世論』(佐藤, 2008) では、戦後の常用漢字の施行過程の中で、常用漢字でなくなった「輿論(ヨロン)」を「世論(ヨロン)」と表記することになり、「輿論(ヨロン)」と「世論(セロン)」の区別が曖昧になったと指摘されています。
私たちが公共政策や社会構造に真に反映させるべきは「輿論」であり、必ずしも「世論」に振り回されるべきではありません。この区別が曖昧になると、行き過ぎた個人主義やポピュリズムに歯止めがかからなくなってしまいます。

今日は、個人がSNSなどで意見を自由に宣べられる一方、自分と似た意見や思想を持った人々で集まることによって、自分の意見や思想があたかも唯一の正解であるかのごとく勘違いしやすい (コーンチェンバー現象) 時代でもあります。
このような時代だからこそ、適切な議論を経て「世論」を「輿論」に昇華していくためにも、社会を俯瞰した自律性のある立場にあるシンクタンクの役割の重要性が増しています。

日本のシンクタンクを取り巻く現状

このようにシンクタンクの重要性が増している時代背景があるにも関わらず、日本におけるシンクタンクの現状は決して十分とは言えません。
ここでは、①シンクタンクとしての「霞ヶ関」と、②民間シンクタンク の現状について言及します。

「霞ヶ関」

日本では過去、五十五年体制下において「霞ヶ関」のキャリア官僚が、政策立案を一手に担ってきました。シンクタンクとしての霞ヶ関が機能していた時代です。
この「霞ヶ関」システムが成功していた要因には、内政と外交政策において、特殊な時代背景がありました。
内政では、海外の政策モデルを輸入することによって、経済が持続的に成長するいわゆる高度経済成長期にありました。
同時に外交政策では、東西冷戦下ということもあり、日本の安全保障に関して、日米同盟の強化に集中することができました。
その結果、取り組むべき政策課題とその解決策は明確であり、官僚が得意とする政党・業界・省益の調整を上手くすることが、最も重要な役割でした。

しかし、『課題先進国』(小宮山, 2007) と言われるように、日本は、少子高齢化や社会保障などの社会課題を世界のどの国よりも先に経験し、日本自らが先陣を切って解決策を模索しなければならない時代に入りました。
また、外交政策においても、2010年に中国が日本の上回って世界第2位の経済大国になったり、東アジアでは核を保有するロシア・中国・北朝鮮の3か国が日本とは異なる価値観で動いていたり、アメリカの覇権国としての地位が相対的に低くなる中で、厳しい国際関係に曝されています。

このような中で、「霞ヶ関」は、①縦割り行政によるたこつぼ化、②非競争的な政策形成過程、③1つのポストを数年で異動することによる専門性の低さ、④国家戦略やグローバルな政策リテラシーを踏まえた議論する余裕のなさから、国際競争力を失い始めています。
本来、官僚機構はシンクタンクではなく、日本の特殊な時代や文化的な事情から「霞ヶ関」がシンクタンクの役割を果たしてきましたが、今後は、異なる立場からシンクタンクの役割を果たす機関が期待されています。

民間シンクタンク

日本では、1970年代前半と1980年代後半に、第1次と第2次のシンクタンクブームを経験しました。ここで登場した多くが総合研究所を名乗ったため、総研系とも呼ばれるこれらのシンクタンクは、現在に至るまで日本のシンクタンクの柱になっています。

総研系シンクタンクのほとんどは、金融証券会社やメーカーの傘下に組み込まれ、親会社のアジェンダに応えることを任務としています。また、親会社が調査研究成果の所有権を持つ場合も多いです。
シンクタンクの最も大きな課題である資金については、総研系では、親会社からの受託・システム開発・コンサルティング事業の収益を充てることで、費用を捻出しています。

また民間シンクタンクは、公官庁からの委託案件をシンクタンク事業の一部としている場合があります。しかし、公官庁からの委託案件にはシンクタンクとして構造的な問題があります。
先にも述べた通り、シンクタンクとコンサルティングの最も大きな差異は自律性です。クライアントである公官庁の意向に沿って解決策を提示することは、本質的にはシンクタンクではなくコンサルティングです。これは、ともすれば、政策当局者に少しでも注目されるために、すぐに役立つアイデアや標語を探そうとするスプーンフィーディングと呼ばれる手段に陥る危険性と常に隣り合わせであることを意味しています。

クライアントである公官庁の顔色を窺わなければならない状態では、自律的かつ長期的な視点から公共の福祉の資することは難しく、これが民間シンクタンクの構造的な欠陥であると言えます。
上図のマトリックに目を移すと、日本の民間シンクタンクは左側の応答性の要素が強く、シンクタンクとして本来あるべき、自律性の領域が空白地帯になっていることが分かります。

RIWBが目指す未来

シンクタンクの必要性が認識されているにもかかわらず、日本に真のシンクタンクが根付かない最大の理由は、独立した資金の確保です。
そのため、RIWBでは、自らがシンクタンク活動を行うのに必要な資金は、自らの事業によって生み出すことを目指しています。

RIWBは、独立した資金を自ら確保することで、日本のシンクタンク界の構造的な限界を打破し、人類社会と個々人のWell-beingに貢献することに挑戦します。

参考文献

  • McGann, James G., 2021, “2020 Global Go To Think Tank Index Report”. TTCSP Global Go To Think Tank Index Reports. 18.
  • 小宮山宏, 2007, 『課題先進国』, 中央公論新社.
  • 佐藤卓己, 2008, 『輿論と世論』, 新潮選書.
  • 鈴木崇弘, 2007, 『日本に「民主主義」を起業する』, 第一書林.
  • 船橋洋一, 2019, 『シンクタンクとは何か』, 中公新書.

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